「バーチャルボーイはコンプリートまで『あと1本だった』んですが、最後の一本がどうしても手に入らなくてコンプをやめちゃったんだよね。」
これは当方が1997年か1998年頃、友人に語っていた言葉である。
当方が初めて「この機種は完全コンプしてみよう」と思ったのは、1997年の夏のことだ。近所のゲーム屋で「新品バーチャルボーイ + ソフト3本セット」が6,800円という衝撃プライスで売られていたのが始まりでと記憶する。
当時のゲーマーには言わずと知れた話だが、バーチャルボーイというゲーム機は「単色」「目に悪そう」「サイズが大きい」「未知の存在」という理由で、ほとんどの人が購入を躊躇していたし、かく言う当方も同じで、定価で買う気はさらさらなく、仮に3割引で並んでいても手を出すつもりは毛頭なかった。
だが「新品本体 + ソフト3本で6,800円」という数字は、バーゲンセールと言っても差し支えない破壊力があったし、飽きてすぐ売っても2,000円前後の損で済みそという事から、考える間もなく即決で購入。
そんなバーチャルボーイ、いざ遊んでみれば「予想以上に目を酷使する」ものの、立体視が思っていた以上にしっかりしており、更に言えばオマケに付いてきたゲーム自体の出来も良く、当方は思わず感涙寸前くらいまでに感動した。 そこで友人たちにも自慢のバーチャルボーイを体験プレイさせ、
「あの店で売ってる新品のバーチャルボーイセット、俺らで買い占めて『バーチャルボーイのサークル』を作ろうぜ!!」
と勧誘した結果、店頭に20台ほど山積みされていたバーチャルボーイは仲間内で買い尽くされ、「西東京バーチャルボーイ部」が誕生した。
しかし、先述のとおりバーチャルボーイは「目を酷使」する……いや「死ぬほど酷使する」ゲーム機だったため、2週間ほどで20人程いたメンバーは1/4の5人に減少する。 そして近所のゲーム屋には、部員たちが売却したと思われるバーチャルボーイが2,800円で並び、その様相は戦後日本の闇市を彷彿させる程ひどい光景であった。
それから更に1ヶ月後、部員は当方(部長)とE君(副部長)の2名となり、更に1週間後にはE君も幽霊部員と化す。
それでも当方のバーチャルボーイに対する情熱は消えなかった。 「バーチャルボーイは終焉を迎えるのがメチャクチャ早かったから、全タイトルのコンプリートが現実的に可能かもしれない」…と気づいたからである。(全19タイトル)
当方は自分の足と知人のツテを使って「バーチャルボーイのソフト」を集め始めた。大半は新品でも捨て値だったし、本数が少ないと言われている「バーチャルボーリング」「バーチャルラボ」も、定価/定価前後で入手した。
しかし、どうしても「SDガンダム ディメンションウォー」だけが入手できない。 当時ヤフーオークションがあれば当方は「最後の1本」であるが故に、定価の3倍の価格であっても出していたと思う。そんな気概で一年以上探しても見つからなかったのだ。
この一年間の間、当方は「西東京バーチャルボーイ部」を再興する為に、手持ちのソフトを徹底的に遊び倒したが、任天堂が発売したタイトルを除いては、殆どが「イマイチ感が漂うゲームばかり」であったし、後に「超激レアソフト」として高額取引されるようになる「バーチャルラボ」についても、あれだけプレイしたのに未だルールが完全に理解できない有り様。
「これってバーチャルボーイで『ストリートファイターII』か『バーチャファイター2』でも発売されない限り、誰もバーチャルボーイ部に再入部しないよね?」
そう気づいた頃には、バーチャルボーイを遊びすぎたせいで只でさえ悪い視力は更に落ち、気づけば買って間もない眼鏡のレンズの度を大枚叩いてあげる羽目に。 このような理由から当方は「コンプリートまであと1本」という、コレクターにとって最も高揚感が高まる領域に到達しながらも体力の限界を迎え、ある日突然バーチャルボーイ一式を売却し、その日から「ニンテンドー64コンプリート」へと目標を切り替える事となる。
そんなほろ苦い思い出を呼び起こす『レトロゲーム大事件』が先日発生した。 バーチャルボーイの迷作パズルゲーム「バーチャルラボ」(Virtual Lab)が、セガの名機『メガドライブ』にまさかの勝手移植されたのだ。
これはバーチャルボーイを愛した者、レトロゲーム愛好家、そしてセガ信者の誰にとっても「大事件」と言える話であるし、肝心要の移植度はほぼ完璧と言っても過言ではなく、そして十五分ほど真面目にプレイした当方は久しぶりに「相変わらずルールがイマイチ理解できねぇ…」とボヤいた。
それ程までに、驚くほどの仕上がりと言えよう。
https://www.plutiedev.com/blog/20251103 勝手移植なメガドライブ版 バーチャルラボの公開ページ
https://www.youtube.com/watch?v=7rb4IpdFfvU 勝手移植なメガドライブ版 バーチャルラボのプレイ動画
https://www.youtube.com/watch?v=_JHfh2C_f1I オリジナルのバーチャルボーイ版 バーチャルラボのプレイ動画
真面目な話、チュートリアル的な「最初の数面」が存在しない点を除けば、ほぼ完全移植と感じたし、本作にはバーチャルボーイ版には搭載されていない「二人対戦」が可能であるので、今も昔もバーチャルラボが好きな愛好家には嬉しいサプライズ機能と言っても過言ではないだろう。
というわけで、任天堂が発表した「バーチャルボーイ for Nintendo Switch 2/Switch」を即予約したという方や、バーチャルボーイで散々遊んだ結果として『一生メガネ生活』に突入してしまった方、この駄文を読みながら「そういやバーチャルボーイのタイトルが他機種に移植された例って見たことないな」と気づいた方などは、この勝手移植版のバーチャルラボをチェックしてみてはいかがでは。
追記1…… 後に個人の手により「ストリートファイターII」がバーチャルボーイに勝手移植されるのだが、それによってバーチャルボーイの人気が跳ね上がったという話は聞いた事がないし、バーチャルボーイ版 ストリートファイターII自体も言うほど知られていない。
追記2……当方がバーチャルボーイで最も好きなゲームは、任天堂のタイトルではないが問答無用に「レッドアラーム」(T&E Soft)である。
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